ニュースリリース

慶應義塾大学、三菱ケミカルとともにユーティリティー・スケールの量子リザーバー・コンピューティングを探求

大企業によるユーティリティー・スケールの量子コンピューティング研究を促進するQuantum Innovation Center
2025年05月23日

2017年に慶應義塾大学は、現在Quantum Innovation Center(QIC)と呼ばれるIBM Quantum Hubsの、世界初の拠点のひとつとなりました。QICは世界中に40以上の拠点があり、IBM Quantumの機能と専門知識を活用し、量子コンピューティングの進歩を推進しています。これらの国際的なハブは、新しい量子研究を主導し、量子学習コミュニティーを構築し、共同研究に参加するメンバーを募集することで、グローバルな量子エコシステムの成長を促進しています。

 

慶應義塾大学は、QICとして、日本の産業界のリーダーと連携して新しい量子アルゴリズムとアプリケーションを開発しています。その1つが、材料科学の研究開発で世界をリードする三菱ケミカルとの継続的な協業です。2023年、両組織の研究者は、東京大学、アリゾナ州立大学、ニューサウスウェールズ大学の研究者と提携し、ユーティリティー・スケールの実験で、IBM Quantumデバイス上で量子リザーバー・コンピューティングの提案手法を実装しました。この研究は、現在も続いている継続的な研究活動の始まりです。

 

ユーティリティー・スケールの量子計算をリザーバー・コンピューティングに導入

リザーバー・コンピューティング(RC)は、ニューラル・ネットワークや敵対的生成ネットワークなど、より一般的なML手法に関連するトレーニング・オーバーヘッドを削減することを目的とした機械学習(ML)フレームワークです。この場合、リザーバーとは、入力システムからデータを取得して変換を適用できる計算リソースであり、個々のデータ・ポイント間の関係を維持しながら大規模なデータセットを操作できるようにする数学関数です。

 

一般的なリザーバー・コンピューティングの実験では、研究者は入力システムのデータをリザーバーに送信することから始めます。リザーバーはデータを変換したバージョンを出力し、研究者は後処理技術を使用して目的の解を取得します。この後処理の一般的な選択肢は、変数間の関係を記述するためのMLモデルである線形回帰モデルです。リザーバーによって生成された、変換された出力データで学習した後、研究者は線形回帰モデルを使用して、入力システムの動作を予測する時系列を生成できます。

 

量子リザーバー・コンピューティング(QRC)は、量子プロセッサーをリザーバーとして使用するRCのサブ・フィールドです。量子コンピューターは、本来、高次元のデータ処理に適しており、最終的には従来のリザーバーよりも計算能力が高いことが証明される可能性があります。慶應義塾大学、三菱ケミカル、および研究パートナーは共同で、自然界の複雑系の研究にQRCがどのように役立つかを模索しています。2023年の実験では、「ソフト・ロボット」のノイズの多い非線形の動きを予測する能力を備えたQRCモデルの構築に着手しました。ソフト・ロボットとは空気圧をかけて動きを制御する、曲げることが可能な機械のことです。

 

新しいQRC手法の開発

研究者たちはまず、ロボットの動きデータを量子リザーバーが読み取れる量子入力状態に変換することから、実験をIBM量子プロセッサーで開始しました。次に、これらの入力状態をリザーバーに供給します。リザーバーは、入力状態に一連のランダム・ゲートを適用し、変換された信号の出力を返します。次に、研究者は線形回帰を使用してこれらの出力信号を後処理します。その結果、ロボットの動きを予測する時系列データが得られます。研究者たちは、ベンチマーク手法を使用してこの予測を実際のデータと比較し、その精度を判断しました。

 

ほとんどのQRC法では、測定は量子回路の末端で行われるため、各タイム・ステップで各量子ビットに対してシステムの準備と実行を繰り返す必要があります。これにより、時系列の精度に悪影響を及ぼし、実験の実行に必要な時間が長くなる可能性があります。慶應義塾大学と三菱ケミカルの実験は、これらの課題を「繰り返し測定」で克服することを第一の目標としていました。タイム・ステップごとにシステムを準備して実行する代わりに、システムに追加の量子ビットを加え、これらの追加の量子ビットを繰り返し測定します。この方法により、研究者は時系列を1回のショットで収集できるため、回路の実行に要する時間が短縮され、より正確な時系列が得られます。

 

研究者たちは、IBM Quantumプロセッサーで、最大120量子ビットでQRCスキームの実証実験を行いました。その結果、従来のQRC法と比較して、繰り返し測定は精度が高く、実行時間が大幅に短縮されることがわかりました。また、初期の結果から、計算をさらに高速化できる可能性が示唆されました。これらの方法が実用的な問題に有用な結果をもたらすことができるようになるまでには、RCとQRCの分野でさらに多くの研究が必要になります。しかし、研究者たちは、現在においても、彼らのユーティリティー・スケールの実験は、すでに古典的なシミュレーション手法を超えている可能性があると述べています。将来的には、金融リスク・モデリングなどの難しい非線形問題に対する量子リザーバー・コンピューティングを探求したいと考えています。

 

量子イノベーション・センターが企業の研究機関に価値を提供する方法

慶應義塾大学と三菱ケミカルの協業は、IBMのQICネットワークに参加するパートナーと協力することで、企業がどのようなメリットを得ることができるかを示す一例です。これらの協業により、企業の研究者は、量子コンピューティングに関する深い専門知識を持つだけでなく、他の研究者に複雑なテーマを教えることの専門家でもある教授や学生の助けを借りて、高度な量子スキルを構築する機会を得ることができます。

 

このようなメリットを享受しているグローバル企業は、三菱ケミカルだけではありません。慶應義塾大学は、さまざまな業界や潜在的な量子ユースケースで活動する大手企業の研究開発チームとともに、量子アプリケーションとアルゴリズム開発の有望分野を調査しています。これらの協業は、企業による有望な量子ユースケースの探索を促進するためにQICが果たすことができる貴重な役割を示しており、大学の協業で実施される企業の研究実験が価値ある実世界のアプリケーションへの道を開く方法を示しています。

 

当報道資料は、2025年4月25日(現地時間)にIBM Corporationが発表したブログの抄訳をもとにしています。原文はこちらをご参照ください。

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