ニュースリリース

完全自動航行船・Mayflower号に搭載の「AI Captain」、海上試験航海を実施

PromareとIBMのエンジニアによる新しい海洋向けAI、900億ドルの自動航行船市場へ
IBM Edge、AIテクノロジー、および100万枚を超える画像により
航海時における危険物の自動感知、自動操縦などを実現
2020年03月 5日

[イギリス、プリマス - 202032日(現地時間)発] IBMと海洋研究組織のPromareは、新しい「AI Captain」の試験航海を今年3月に行うことを発表しました。「AI Captain」は、年内に予定されている完全自動航行船Mayflower号(MAS)の、自動航行による大西洋横断で使用されます。2020年9月16日に記録を破る試験航海へと出航するMayflower号は、船内に搭載するAIとエッジ・コンピューティング・システムが、航海の途中で遭遇するであろう船舶などの危険物を察知し、安全に回避します。

完全自動航行船・Mayflower号は、初航海した1620年から400年が経ったことを記念し、その航路をたどります。イギリスのプリマスを出港し、アメリカのマサチューセッツ州プリマスまで船長も船員もいない無人航海に成功すれば、大西洋を完全自動航行する世界初の実物大船舶となります。このミッションは、自動航行船の開発を促進し、海洋研究の未来を一変させるでしょう。

完全自動航行船Mayflower号のCTOであるドン・スコット(Don Scott)氏は、次のように述べています。「自動航行船市場は現在の900億ドルから2030年*には1,300億ドルに成長すると予測されています。しかし、現在の自動航行船の多くは実際には自動化されているだけのロボットです。動的に新しい状況に適応することはなく、オペレーターの指令変更に大きく依存しています。私たちは、IBMのAIやクラウド、エッジ・テクノロジーを使用して、Mayflower号を完全な自動航行船にすることを目指し、自律的にできることを増やしています」

 

試験航海の開始

MASは、IBMの先進的なAIとエッジ・コンピューティング・システムを利用して、人間が介入することなく、航海中に危険物を察知し、回避するなどの意思決定を行います。現在ポーランドのグダニスクで、トリマラン型自動航行船Mayflower号の3つ船体が建造の最終段階に入っています。Mayflower号の「AI Captain」のプロトタイプは、英国のPlymouth Marine Laboratoryが所有、運営している有人研究船Plymouth Quest号に乗せられて、今月、初めて進水します。この試験航海は、Smart Sound Plymout (英語, IBM外のWebサイトへ )の海上でQuest号の船員の監視下で行われ、Mayflower号のAI Captainが実際の海の状況に対してどのような挙動をするのかを判断するのに役立ちます。また、船の機械学習モデルの改善に役立つ貴重なフィードバックを提供します。

 

2年間の学習と100万枚の海洋画像

Mayflower号のチームは、イギリスのPlymouth Soundのカメラやオープン・ソース・データベースから収集した100万枚を超える海洋画像を使用し、過去2年間にわたりMayflower号のAIモデルの学習を行いました。機械学習プロセスの要求を満たすために、IBM Power System AC922を使用しました。これと同様のIBM POWERテクノロジーが、世界で最も高性能なAIスーパーコンピューターで使用されています。IBMのコンピューター画像認識テクノロジーであるIBM PowerAI Visionを使用することで、Mayflower号のAI Captainは、船舶などのほか、島、防波堤、漂流ごみなどの危険物を自力で検出し、分類します。

 

すべてを船上で処理

Mayflower号は、大西洋を航海する間は高帯域接続を利用できないため、Red Hat Enterprise LinuxとIBMのエッジ・コンピューティング・ソリューションを基盤とし、NVIDIA Xavierプロセッサーを搭載した完全自律型のエッジ・システムを使用します。Mayflower号は、航海中は船上でデータを処理することにより、意思決定の高速化と、データ・フローやデータ・ストレージの量を削減します。

IBMエッジ・コンピューティング担当バイス・プレジデント兼CTOのロブ・ハイ(Rob High)は、次のように述べています。「Mayflower号のような自動航行船を実現するには、エッジ・コンピューティングが絶対不可欠です。この船は、周囲の環境を感知し、状況について賢明な判断を下し、得られた知見に基づいて最短時間で行動します。しかもこれらは、断続的にしか通信できない状況で、サイバー脅威からデータを保護しながら行われます。IBMのエッジ・コンピューティング・ソリューションは、自動航行船Mayflower号のようなミッション・クリティカルなワークロードを支援するように設計されています。大海の真ん中であっても、クラウドの能力およびRed Hat Enterprise Linuxのセキュリティーと柔軟性をネットワーク・エッジまでもたらします。」

 

目的を達成

AI Captainは、マサチューセッツ州プリマスに最短期間で到達するという目標を追求するだけではありません。AI Captainは、IBMのルール管理システム(ODM:Operational Decision Manager)を利用し、海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(COLREG:International Regulations for Preventing Collisions at Sea)および海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS:International Convention for the Safety of Life at Sea)の勧告を遵守します。気象は航海の成功を左右する最も重要な要因なので、AI Captainは、The Weather Companyから入手する気象データを、航行に関する意思決定に役立てます。Mayflower号のAI Captainは、気象データのほかに、深度や船舶の状態などの重要な状況データを考慮しながら、厳しい環境でも自力で航行できるように設計されています。ODMはさらに、どのように意思決定が行われたのかを完全に透明化した記録を提供し、意思決定のブラック・ボックス化を避けています。

 

実際のシナリオ:航海中のMayflower号における危険物の自動感知、自動操縦

たとえば、Mayflower号がケープ・コッド東約500 kmの外洋を航海中で、現在は衛星回線に接続していないとしましょう。その航路の前方には、漁船と衝突した貨物船があり、その積荷の一部が散乱しています。このように想定される状況で、完全自動航行船Mayflower号のAI Captainは、次に示すテクノロジーとプロセスを使用して、自力でいま解決すべき問題を理解し、講じるべき措置を決定します。

 

自動感知(現在の環境の評価と危険の識別)

  • レーダーは船の航路上2.5海里前方に複数の危険を検知します。
  • IBM PowerAI Visionは、船上カメラから画像を読み込んで、貨物船、漁船、および部分的に海上に漂う3個の輸送コンテナを危険物として識別します。
  • 船舶自動識別システム(AIS:Automatic Identification System)は貨物船の船級、重量、速度、積荷などの詳細情報を提供します。
  • 航行システムは現在の位置、進路、速度、および針路を提供します。
  • Mayflower号の海図サーバーはその航路に関する地理的な空間情報を提供します。
  • The Weather Companyは気象データを提供します(最後に衛星回線へ接続された時間に依存します)。
  • 姿勢センサーは近傍の海面状態(波による横揺れと縦揺れの状態)を評価します。
  • ファソメーターは水深を提供します。
  • 船舶管理システムは充電レベル、消費電力、通信、計測機器などに関するデータを提供します。

思考(選択肢の評価)

  • IBM Operational Decision Manager(ODM)は近接する他の船舶に関してCOLREGを評価し、前方の「安全ではない」状況を示すリスク・マップを生成します。
  • AI CaptainはODMの助言、AIによる画像認識結果、現在の気象情報、および気象予報を取り込んで、危険を回避するための複数の選択肢を評価します。

行動(最善の措置を選択して船舶に指示)

  • AI Captainは、右舷に舵を取って予想外の航行の危険を回避することが最善の措置であると判断します。
  • AI Captainは、船舶管理システムに針路と速度を変更するように指示します。

海は常に変化する動的な環境なため、AI Captainは常に状況を再評価して、状況の展開に合わせてMayflower号の針路を更新します。

現在は有人航行で3カ月の評価期間中ですが、その後は、5月から完全自動航行を評価する試運転が始まります。


*: https://www.alliedmarketresearch.com/autonomous-ships-market(IBM外のWebサイトへ)

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