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クリーブランド・クリニック、理化学研究所、IBM、12,635原子のタンパク質をモデル化 — 量子コンピューターによるシミュレーションとして過去最大規模

生物学的に重要な分子の大規模シミュレーションを通じ、量子中心のスーパーコンピューティングが科学ツールとして果たす役割を拡大
2026年05月7日

【米国ニューヨーク州ヨークタウン - 2026年5月5日(現地時間)発】
クリーブランド・クリニック、理化学研究所(理研)、IBMの科学者は、IBMの量子コンピューターと世界有数のスーパーコンピューター2台を活用し、最大で12,635個の原子からなるタンパク質複合体のシミュレーションを実施しました。本シミュレーションは、量子ハードウェアを用いて実施された生物学的に重要な分子シミュレーションとして最大規模であり、量子コンピューターが生物学、化学、ライフサイエンスにおける根本的な課題の解決を支援する、実用的な科学ツールとして成熟しつつあることを示しています。

 

今回の成果は、量子コンピューターと古典コンピューターの連携に基づく「量子中心のスーパーコンピューティング」の枠組みのもと、その連携を最適化する革新的なアルゴリズムの活用によって支えられています。このアプローチにより、チームは生化学的に重要な2つのタンパク質の挙動を捉えることに成功しました。これは同一手法でわずか6カ月前に達成した規模の約40倍に相当します。さらに、ワークフローの中核となるステップでのシミュレーション精度は、この期間で最大210倍向上しました。

 

量子コンピューターがタンパク質複合体のシミュレーションにおいて価値を提供できるかという検討は、創薬候補がタンパク質にどのように結合するかを研究する際に研究者が直面している課題に着目したことに端を発しています。この問題はライフサイエンス研究において最も困難で、かつコストの高い課題の1つであり、分子の規模が大きくなるにつれて、既存の計算手法では正確に解くことが難しくなります。これを創薬プロセスの早期段階で高精度に解明できれば、現在では10年以上に及ぶこともある医薬品開発期間の短縮につながる可能性があります。

 

クリーブランド・クリニック コンピュテーショナル・ライフサイエンス部門 主任著者 兼 研究科学者のケネス・マーツ(Kenneth Merz)氏は、次のように述べています。「本研究は重要な前進を示すものであり、創薬に関連する取り組みにおける量子コンピューティングの新たな役割を示しています。12,000原子の壁を超えたことで、量子コンピューティングを用いた生物学的に意味のある分子シミュレーションの規模を大きく拡張し、これらの手法をより大規模で科学的に重要な課題へ適用するための枠組みを示しました」

 

IBM ResearchディレクターでIBMフェローのジェイ・ガンベッタ(Jay Gambetta)は、次のように述べています。「長年にわたり量子コンピューティングは可能性として語られてきましたが、現在では科学にとって意味のある成果を生み出し始めています。今回シミュレーションした対象は、生物学者や化学者が実際の研究で扱う分子です。量子コンピューターは単なる有用性の検証段階を超え、量子中心のスーパーコンピューティング・アーキテクチャーを用いて実質的な成果をもたらす段階に進んでいます」

 

本成果は研究プレプリントとして報告されており、3機関によるこれまでの一連の成果を基盤としています。これには、分子の電子状態をモデル化する技術を紹介した「Science Advances」の研究や、鉄硫化物での実証、さらに20個のアミノ酸からなる完全な量子を中心としたシミュレーションとして初めて知られる303原子のベンチマーク分子「Trp-cage」に関する最近の研究が含まれます。

 

量子コンピューターと古典コンピューターの連携

このアプローチは、IBMが「量子中心のスーパーコンピューティング」と呼ぶもので、量子プロセッサーと古典コンピューターを組み合わせ、それぞれの計算手法が得意とする部分を担うことで問題を解くものです。本研究では、古典コンピューターがタンパク質とリガンドの複合体を計算可能な断片に分解しました。米国のクリーブランド・クリニックおよび日本の理化学研究所に設置されたIBMの量子コンピューター内で稼働する156量子ビットのIBM Quantum Heronプロセッサーは、理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」および東京大学と筑波大学が運用する「Miyabi-G」という世界有数の古典スーパーコンピューターと連携し、それらの断片ごとの量子力学的挙動を計算しました。IBMの量子ハードウェアの性能は、この計算の精度と成功に不可欠であり、シミュレーションの一部では最大94量子ビットを用いて約6,000回の量子演算が実行されました。最終的に、結果は古典コンピューター上で再構成され、分子の完全な表現が得られました。

 

本成果は、arXivに掲載された通り、アルゴリズムの革新と最先端の計算基盤へのアクセスの双方によって、規模の大幅な拡張が実現しました。新たにEWF-TrimSQDと名付けられた量子・古典ハイブリッド・アルゴリズムは、計算負荷を大幅に低減するとともに、これらの分子系の化学的特性を量子ハードウェア上で直接表現する能力を高めました。その結果、量子中心のスーパーコンピューティングで実現可能な範囲は、これまで到達できなかった分子サイズへと押し広げられ、さらに規模と精度を向上させるための明確な道筋が示されました。

 

創薬に向けた一歩

本研究チームは、本成果を出発点と位置付けています。今後、分子系のシミュレーションの規模を精度を保ったまま拡張する能力は、薬剤がタンパク質標的とどのように相互作用するかをより的確に予測するための重要なステップとなります。創薬における計算能力の向上は、2つの基本的な能力に依拠しています。すなわち、第1に、生物学的過程が進行する中での原子の動きをモデル化すること、第2に、そのエネルギーを正確に計算することです。本成果は、量子中心のスーパーコンピューティングがこれらを支援できることを裏付けています。

 

量子コンピューターが進展するにつれて、これらを計算ワークフローに統合することで、より大規模な問題においてエネルギー計算の精度向上が期待されます。また、現在は実験によってのみ研究されている酵素触媒や薬剤の作用機序、その他の分子挙動のシミュレーションへの道を開く可能性があります。

 

より広い観点では、本ブレークスルーは、科学における量子コンピューティングの意味の変化を示しています。これまで量子計算の分野では、量子ビット数、ゲート、エラー率によって進歩が測られてきましたが、今後は解決に貢献できる問題の規模や重要性によってもその能力が評価されるようになります。このマイルストーンに関する詳細はこちらをご参照ください:https://www.ibm.com/quantum/blog/cleveland-clinic-riken-chemistry(英語)

 

研究支援

本研究は、日本の経済産業省所管の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」(JPNP20017)の一環として、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する「未踏計算領域の開拓のための量子・スーパーコンピュータハイブリッド基盤の研究開発」(プロジェクトリーダー:佐藤三久)により支援を受けています。

 

当報道資料は、2026年5月5日(現地時間)にIBM Corporationが発表したプレスリリースの抄訳をもとにしています。原文はこちらを参照ください。

 

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